それは、小さな会社の技術者の「こんなモノがあったらいいのになあ」というニーズから始まりました。
具体的にお話しますと、樹脂で樹脂を作るということでした。
その技術者は、複写機やプリンターなど事務機器の受託設計を担当していました。
客先から製品に要求される性能や条件、概略図などの仕様をもらって、具体的な製品の構成や部品の形状、寸法などに置き換えることをしています。
そして、取引先によっては、試作機を作ることや本格的な生産のための部品を受託することまでを行っていました。
そんな仕事をしている中で、ある会社からの設計依頼を受け、設計後には、試作機の部品を受注することになったのです。
彼は、もともと大手の企業で開発設計を担当していたこともあり、製品開発におけるステップとそのステップで発生する課題についてよく知っていました。
製品開発では、基本設計→詳細設計→実機テスト→試作機の製作・テスト→試作機の評価→量産試作→量産へと進んでいきます。
簡単にステップを説明しておきますと、基本設計は、製品の構造や方式などをどうするのかを決めることです。
つぎの詳細設計は、決めた構造を部品に展開し、加工部品の形状や材質、寸法、公差などを決めることです。これが、図面として表現されることになります。
そして、製品を実際に作ってみて、要求された性能を発揮する製品になっているのかを確認することになります。これが、実機テストです。
実機テストの結果、OKであれば、試作機を製作することになります。
試作機は、実際の使用条件をもとに開発部門や営業部門などで再評価をします。
これが、試作機の製作・テストであり、このほかに組立やメンテナンスのしやすさなどを評価して、合格したものが製品化へと進んでいくのです。
このステップの中で、プラスチック部品を採用すると、実機テスト段階では、金型を製作して部品を作っていたのでは4週間程度の時間がかかり、迅速な検討ができません。
また、金型の材料には、金属を用いますのでそう簡単に期間をそう短縮できるものではありません。
このため、多くの会社では、簡便に作る方法として、光造形による方法や削り出した切削品、注型による成形で対応しています。
しかし、これらの方法は、リスクを伴うことがあります。
光造形品や注型による成形であれば、図面に指定されている材料とは違う材料を使い、評価することになってしまいます。
また、寸法精度は、金型で要求する精度を満たすことは難しく、追加工することになってしまいます。
また、切削品の場合には、成形したものではないため強度に問題が生ずることがあります。
これらの課題は、実機テスト段階では問題なしとの評価を得ることができるでしょう。しかし、つぎの試作機の段階に入ると、金型を製作して、本来のプラスチック部品を作ることになります。
このときに、実機テスト用のプラスチック部品と試作機用のプラスチック部品の違いから、耐久性や強度不足などの問題が発生し、大き問題になってしまうことがあるのです。
この結果、設計者は、再度基本設計からの見直しを求められるのですが、開発期間とコストいう制約があり、混乱を招いてしまうのです。
そして、今回依頼を受けた部品についても、このステップを踏んでいくのですが、製品の発表までの期間にまったく余裕がありません。
もし、プラスチック部品で問題が発生した場合には、製品の発表時期を含め、見直しが必要になります。
ここで、設計と試作品の受託を受けた技術者は、従来から検討していた金型を樹脂で製作し、樹脂の型によるプラスチック部品での実機テストを提案しました。
通常の金型では、製作に4週間程度の期間が必要になります。
それは、金属材料を加工して作るため、時間的にも必要になる部分があります。
これに対して、樹脂を加工するのであれば、時間的に大幅な短縮が可能です。具体的に、この樹脂の型の製作期間は、10日程度で可能です。
光造形品や切削品、注型による成形品ですと、早いもので3日から2週間程度の期間が必要になります。
つまり、従来の方法を用いたプラスチック品の納期とあまり差がありません。
そして何よりも、樹脂の型を用いるプラスチック部品の製作方法は、従来の課題であったプラスチック部品について、実機テストOK→試作機NGということはなくなるのです。
この方法は、成功しました。依頼をしたメーカーでは、製作した部品の精度に驚き、それ以降もこの樹脂で樹脂を作る方法を採用しました。
このような製品開発は、現場を知らないと出来ない方法です。中小企業では、自社のコア技術を磨き、そこから自社だけの製品を作ることが、新製品開発の成功の鍵ではないでしょうか。
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