思いつきで命令する困った社員 タイプ4対策
Aさんはニューヨークに本社がある、国際的なレストランチェーンに勤務する課長である。
A課長は仕事ができる人物ではあるが、その場の思いつきで業務命令を行うと、部下からの評判が悪い。
先日もA課長はフランスからの出張を終え、東京に帰り、2日後、米国に国際会議のため移動することになっていが、急にB係長を米国に同道させると言い出した。
その時、B係長は、ビザはおろかパスポートも用意していなかった。
A課長からの指示を受けた部下たちは、パスポートの取得、ビザ発給の手続きばかりではなく、ホテルの手配、会議参加者リストの作り直し、現場での席順の変更など、おおわらわとなった。
特に、飛行機の席の確保が難しく、スタッフの一人であるGさんが、「今回は無理です」と進言すると、「つべこべ言わずにやれ」というばかりであった。
A課長の意図することはまったく話そうとせず、Gさんがビザの給付が難しい米国政府の事情の説明をしようとしても「そんなこと言っている間があったら、早く調べろ」と、怒鳴りだす始末。
この騒動での書類の書き直しは20枚以上、旅行会社を含め、総勢約50人の人々が振り回されることになった。
このA課長のあまりに理不尽な要求、まったく説明をしない態度に、Gさんはとても耐えられず、とうとう監査役に相談することにした。
この、思いつきで指示・命令をする気質は、エニアグラムではタイプ4に分類される。
監査役はGさんの訴えに素早く対応し、その日のうちにA課長は監査役に呼び出され、注意を受けることとなった。
そしてその後、A課長には大きな変化があったのである。
このタイプ4という気質は、マイワールドな特徴を持っている。
特に、ストレス、緊張が高まり、不安な時、顕著にタイプ4の暴走が始まる。
自分に自信がなくなると、他者の考え、周りの状態、ルールを無視し、一人で突っ走ってしまうのである。
今回もB係長を海外に同行させようとしたのは、タイプ4のマイワールドな妄想、思い込みで頭がいっぱいになってしまったからであった。
A課長は、B係長の同行がなぜ必要なのか、それは本当に出来るのか、現実を判断する余裕がなくなった状態だったのだ。
こんな時、タイプ4は、同僚や配下の言葉を一切、受け付けることはできない。
しかし上司、特に尊敬する上司から、静かにその状況を聞いてもらえれば、現実に戻ることが出来る。
監査役は、かつてA課長の上司でもあったので、GさんがA課長の暴走の件で、監査役に相談したのは良い方法であった。
監査役はA課長と面談したとき、彼を責めることなく、このような会話をしたそうである。
監査役「元気でやっているようじゃないか。実は、ある部署から、海外出張にB係長を同行しようとしていると聞いたのだが・・・・。うまくいきそうなのかな」
A課長「いや、難しそうです」
監査役「実態は分からないが、説明なしに勝手に進めているという話が耳に入ったので、注意しておくよ。少し詳しく、話を聞かせてくれないか」
A課長は、終始穏やかに話を聞いてくれる監査役を前に、次第に心が落ち着き、周りが見えてきた。
まず考えたのは、「なぜ、オレはここ(監査役室)にいるのだろう?」と・・・(笑)。
すっかり、頭が冷静になり、部屋を出たあと、A課長は件のGさんの席にまっすぐ行き、尋ねた。
「今回のことで、皆はどうなっているのだろうか」
Gさんが監査役に連絡をしたのをA課長は知らなかったが、人間というのは不思議なもので、直感的にGさんのもとに聞きに行った。
するとGさんは、ビザ取得や手配で、皆の業務に相当な差しさわりがあることをありのままに告げた。
すると、話しを聞いたA課長は、あっさりその場でB係長の同行の件を取り下げたのである。
どなり散らして、命令を出していたその態度が豹変し、周りはびっくり。
もともとこのスケジュールは、見通しが甘く、A課長の独りよがりな組み立てに無理があったのである。
そのことをA課長は、腹の底ではわかっていたのである。しかし、その不安を表面に出すことが怖かったのだ。
しかし、監査役が丁寧に話しを聞いてくれ、自分を表現できたことで安心し、覚醒したのだ。現実が見えるようになったのである。
まとめである。
タイプ4が、パニック状態になると、ルールを無視し、他人の意見に耳を貸さず、思い込みで走っていく。
妄想、暴走し始めたら、上位者が少し時間をとって静かに話を聞いてあげれば、覚醒して正常な判断ができるようになる。
力づくで止めようとしてはダメ。タイプ4に安心を与えることで、冷静に他人の忠告も聞けるようになるのである。
コンテンツ協力:株式会社エニアグラムコーチング